執行猶予(刑の全部の執行猶予)
「執行猶予」(刑法第25条)とは、刑を言い渡すにあたり、犯情により一定の期間その執行を猶予し、猶予期間を無事経過したときは、刑罰権の消滅を認める制度です。「執行猶予判決」は「実刑判決」と対になる関係と言えます。
刑法第25条
1 次に掲げる者が3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状によ り、裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
① 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
② 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第1項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
ちなみに、一般的に執行猶予と言えば上記の規定を指しますが、「刑の一部執行猶予」(刑法27条の2~)という刑期の一部にしか執行猶予が付かず刑務所へ入る必要がある執行猶予も存在します。
そのため刑法第25条の執行猶予は、正しくは「刑の全部の執行猶予」と呼びます。刑の一部執行猶予は知っている人も少なく、かつ実務で使われることも基本ないので、本記事では刑の全部の執行猶予のことを、「執行猶予」と呼び、扱うこととします。
制度趣旨
科刑による弊害を避け、もし執行猶予の条件に違反した場合には刑が執行されるというプレッシャーによって、犯人の自覚に基づく改善更生を図っています。どんな人にとっても刑務所へ収監されるということは避けたい事態なので、再犯の防止に役立ちます。
条文に「執行を猶予することができる」とあるように、執行猶予を付けるかどうかは裁判所の裁量です。
執行猶予の宣告とよくある勘違い
条文のとおりですが、おおざっぱに宣告刑が懲役3年以下であれば付く可能性があると覚えてもらえればそこまで外れていません。初犯かどうかは重視される要素ではありますが、前科があっても付くときは普通に付きます。
逆にいえば、懲役4年などと宣告されたのであれば絶対に執行猶予が付くことはありません。
裁判官「被告人を懲役3年に処する。この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予することとする。」
といった形で宣告されます。これは懲役年数、猶予期間ともにMaxのケースですね。
よく勘違いされるのですが、この懲役年数と猶予期間を混同しないようにしましょう。
懲役年数が3年以下→1年~5年の期間で執行が猶予される
の流れです。
上記の例であれば裁判確定後5年間おとなしくしていれば刑務所へ入る必要はありませんが、その間に犯罪を犯し新たに1年の実刑判決を受けた場合、1年+猶予されていた3年=4年間刑務所へ入ることになります。
一応、この場合でも刑法第25条2項により再度の執行猶予が付く可能性もゼロではありませんが・・・稀でしょう。
執行猶予が付くケース
- 前科の有無
- 犯罪の軽重
- 犯罪の悪質性
- 示談・弁償の有無
- 被告人の反省度合い
等を総合的に考慮して裁判所が判断します。実務上類似の裁判例を参考に判断することが多いです。
ケースバイケースですが、初犯で重罪でなければ執行猶予が付くことが多いでしょう。
余談ですが、覚せい剤の所持(使用)の場合、初犯であれば「懲役1年6月、執行猶予3年」となることが多いです。被告人が反省していない、ないしは悪質であると裁判官が判断した場合は「懲役2年、執行猶予4年」になることも。覚せい剤事件の判決を裁判傍聴やニュースで見るときは、そういった視点で見てみるのも面白いと思います。
コメント